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最終更新 - 2011年9月2日

腰痛予防

【 ぎっくり腰ってナンですか? 】

体幹を捻る 『ぎっくり腰』という言葉。普通に使っている割に意味がはっきりしない言葉です。意味は、『歩くことに支障を来たすほどの強い腰痛が突然おこること』で、早い話が『急性腰痛』ということです。
多くのぎっくり腰の患者さんが、その痛みがあまりに強く感じられることから、何をするにも電池の切れ掛かったロボットのように不自然にゆっくり動くことしかできなくなります。
この厄介な症状の概要を知ることで、ぎっくり腰を予防する方法を探ろうという試みを以下に展開します。
急性腰痛の原因となるのは、腰椎椎間板ヘルニア、腰椎椎間板変性、腰椎周囲の筋・筋膜性疼痛などです。
それぞれについて以下に説明します。


▲椎間板ヘルニア

『椎間板ヘルニア』も有名な言葉ですけど皆さんはどんなイメージを持っていらっしゃいますか?
『ヘルニア』というのは、身体の中の特定の組織が本来在るべき位置に留まらず隣にはみ出してくることです。椎間板ヘルニアの他ですと有名なのは脱腸(腸ヘルニア)ですね。脳ヘルニアという症状もあります。
人間の身体には頭骨から仙骨を一直線に繋ぐ脊柱という構造物があり、多数の椎骨が間に椎間板を挟んで連なる構成(これはお腹側だけ。背中側は椎骨どうしが関節してます)となっています。
椎間板というのは大雑把には円柱状で、身体の上下からの振動を吸収する役割を持ちます。その外周にある繊維輪と呼ばれる組織の中に髄核というグミ状の部分を内包する構造体です。繊維輪が裂けてしまい、その裂け目から髄核が出てきてしまった状態を椎間板ヘルニアと呼びます。
飛び出した髄核が椎間板周囲の神経を直接接触・圧迫すると強い痛みが発生します。はみ出た髄核が腰から脚に向う神経線維の根元を圧迫している場合は、その神経線維が受け持っている領域の違和感をもたらします。大腿後面や下腿外側などに熱感や痛みを訴えることも少なくありません。いわゆる「坐骨神経痛」という症状を呈します。


▲椎間板変性

文字通り、椎間板の性質が変化してしまうことを指します。椎間板の中身である髄核が干からびてくるというイメージなら掴みやすいでしょうか?
若い頃にはみずみずしかった髄核が加齢と共に徐々に弾力を失い、椎間板全体の体積が少なくなるので、上下から受けるショックを吸収する能力も衰えてきます。前項ではこの椎間板は大雑把に椎間板は円柱状と書きましたが、それ押しつぶされて、ぺちゃんこになっていることもあります。
椎間板ヘルニアの場合は外からの外力により繊維輪が裂けてしまうことが原因となるのですが、椎間板変性は椎間板の中身そのものが劣化するということです。
年齢が進むと誰にでも起こりうる変性で、そういう意味では避けようがないものです。椎骨どうしの距離が短くなり脊柱の生理的前彎が失われる原因となるほか、筋・筋膜性腰痛の原因ともなります。


▲脊柱管狭窄

脊椎は頭蓋骨と仙骨の間に24個ある椎骨から構成されています。このうち22個の椎骨は大小の差こそあれ、いずれも似たような基本構造で、前側(=お腹側)に椎体と呼ばれる円柱状の塊りがあり、椎間板を挟んで上下の椎体と連絡しています。
椎体の後ろ側(=背中側)に横向きのリング状の橋があり、これが後ろ側の骨の塊りに繋がっています。この背中側にある骨の塊りも、椎体同様、上下の骨の塊りとの間に関節を持っています。
椎骨の後ろ側にあるリング状の部分は上下に連なっていて、この中を脊髄が通ります。この構造を解剖学では「脊柱管」と呼びます。
※脊柱管の内側の靱帯組織が膨らんで厚くなってしまい、脊髄の通り道が狭くなっている状態を「脊柱管狭窄」と呼びます。狭窄の程度が悪化すると脊柱管を通り抜ける神経の束(脊髄)を圧迫するので、神経痛や機能障害の原因となります。


▲筋・筋膜性疼痛

上に挙げた椎間板変性とか腰椎ヘルニアなどの結果、腰椎周囲に起こる炎症によって痛みが発生します。その他に、椎間板変性や椎間板ヘルニアのような症状に陥ると椎骨どうしの位置関係が変化し、周辺の筋肉にも異変がおこりうると言われています。
でも、この話は少し変ですね?二つの椎骨どうしが遠ざかるなら筋肉に緊張が生まれますが、椎骨どうしが近づくのだからその間にある筋肉は弛んで負担が軽くなる筈ですね。
当院では治療中の患者さんの疼痛愁訴があまりに激しい場合、念のため多角的所見が得られる設備を持つ病院に紹介状を書いて検査を受けてもらっています。多くの患者さんが骨格の位置関係に異常が無く、椎間板ヘルニアもすべり症も発見されず、椎間板変性も見つからないという所見をもらって帰ってくるのです。


腰痛を避けることは可能なのか

【 それは避けられないものなのか? 】

さて、我々の身体に元々備わっている性質のひとつに“恒常性の維持”というものがあります。システムの一部に故障が発生したら、故障した部分を庇うため普段と違うシフトを組んで対応しようとする仕組みです。
急性腰痛の原因となるのは、腰椎椎間板ヘルニア、腰椎椎間板変性、腰椎周囲の筋・筋膜性疼痛などです。
椎間板変性は誰にでも起こりうる症状、つまり加齢による症状であるため避けられません。脊柱管狭窄やヘルニアについてもまあ同様で、起こってしまってからの対策を考えるしかありません。
多くのぎっくり腰の患者さんは、その痛みがあまりに強く感じられることから、電池の切れ掛かったロボットのように不自然にゆっくり動くことしかできなくなります。急性腰痛は日常生活のあらゆる局面で大きな不便と辛さをもたらすだけでなく、お仕事をお持ちの方は業務の遂行も困難となりますので、経済的にも大きな損失となります。私たちの生活に大きな打撃を与える急性腰痛は避けることができるのものなのでしょうか?


▲日常生活に潜む危険

これまでの自身の体験や患者さんの訴えを分析してみると、どうやら「腰椎に負担の掛かり過ぎる姿勢」というものが存在し、それがぎっくり腰全般の直接的/間接的な原因になっているようです。
同じ目的で行なう 身体の動きの一方が腰に負担を与え、もう一方はそれを軽減することができる動作となることを紹介したいとおもいます。
日常生活で多く経験する動作で、ぎっくり腰なんて自分には無関係、とお考えのあなたも以下のイラストの左側のような動作を長年続ければ、いつの日か腰が悲鳴を上げはじめる時が来るかもしれません。いえ、けっして脅かしているわけじゃありません。腰痛を訴えて来院される患者さんへの問診の結果と、私自身の体験を基に書いているのです。
また不幸にして既に腰の調子が悪い方も、腰への負荷を減らして症状を回復させるにはイラスト右側に示すような動作を実践することが必須でしょう。簡単なことです。


床から軽い物体を取り上げる/悪い姿勢床から軽い物体を取り上げる/良い姿勢

【 床から軽い物体を取り上げる場合 】

重量のある物を持ち上げるときなら、その物体に出来るだけ近づいてしゃがみ、背や腹に力を入れると同時に脚の筋力を最大限に使おうとするでしょう。
ですが、ごく軽いもの、例えば携帯電話や小銭入れなどに手を伸ばすとき、左のイラストのように膝をのばしたままで腰を曲げているのではありませんか?
持ち上げようとする対象物が軽い物だと思うのでつい油断するのですが、あなた自身の体重も考慮に入れてください。体重の半分は腰から上にあるのです。左のイラストにあるような姿勢では、上体の重みが上下の腰椎にすれ違いの力を加えるのです。右図のようにしゃがんでしまえばOKです。

※ただし膝の動きに制限のある方には右図もお勧めできない姿勢です。どうしたらいいでしょうか・・・考えどころです。症状が軽い方の脚を立て膝にすると良いと思いますが、さて、両膝に問題がある方は?そのような人はしゃがむ姿勢を避け、椅子を使う生活スタイルに環境を変えていくしかありません。ご面倒でしょうが、ぎっくり腰の激しい痛みに悩まされるよりマシでしょう。


靴下を履く/悪い姿勢靴下を履く/良い姿勢

【 靴を履く・・・手元に引き寄せる原則 】

しゃがんで靴下や靴を履く姿勢。左側のイラストの姿勢はかなり腰部に負荷を与えますが、多くの方は意識しないでこのような動きをしているでしょう。
靴を履くなんて一瞬のことと考えがちですが、毎回少しずつ累積する負担というものは、最終的にぎっくり腰に結びつきかねないものです。
腰掛けるところがあればそれを利用し、自らが屈むのではなく靴を取り上げて履けば問題ないのです。また、既に腰椎に問題があり、靴紐を結ぼうと屈みこむ際に痛みを感じていらっしゃるような方は柄の長い靴べらを使いましょう。中腰にならず立ったまま靴をお履きになることができるでしょう。


洗顔/悪い姿勢洗顔/良い姿勢

【 洗面台で洗顔・・・肘を着いて上半身の体重を逃がす 】

上にもご紹介しましたとおり、我々の体重の半分が腰から上にあります。肺が大きな体積を占めるので胸部は軽けれど、腰を支点とすると、そこから最も離れたところに最も比重の高い頭部があります。
中腰の姿勢で洗顔をされますと、これら上半身の重さから、支点となる腰部に大きな負荷が掛かります。腰椎に揃断力(せんだんりょく=すれ違いのちから)が加わるのです。
これを避けるには、右図のように腰掛るものを用意し、上半身の重量をなるべく逃がすよう洗面台の端に肘を着くなどすれば、腰にかかる負荷を軽減することができます。
腰部の状態に不安のある向きは洗顔台を使用せず、立ったまま風呂場でシャワーを使って洗顔することにしてもよいでしょう。


掃除機/悪い姿勢掃除機/良い姿勢

【 低い場所に掃除機を使う・・・手を着いて上半身を支える 】

繰り返しになりますが、あなたの体重の半分は腰から上にあります。
低く奥まった場所に電気掃除機のノズルを差し込む場合などは、腰部に大きな負荷が掛かるので危険な状況といえます。
このような場合は、床に片手を着いて上半身の重量を逃がせば、腰にかかる負荷を軽減することができます。
雑巾掛けするときなら自然にこの姿勢になるのに、電気掃除機を使うときに油断する人が多いのは不思議ですね。
腰への負荷を軽減する目的で手を何処かに着いて身体を支えることはなかなかに有効で、クシャミをすると腰にショックが響く、と訴えられる患者さんにも片手または両手を壁などに置いてクシャミをするようにアドバイスしています。


浴槽の掃除/悪い姿勢浴槽の掃除/良い姿勢

【 浴槽の掃除・・・発想を変えて負荷を減らす 】

左のイラストのように中腰でお風呂掃除をするというのもなかなか辛い動作ではないでしょうか?
浴槽の掃除をするは肘を伸ばした行なうことが多いので、上肢に大きな負荷が掛かり腰への負担が増しています。これはかなり危険な状況ですね。
解決法は簡単で、浴槽の外から掃除しようなどとはせず、ご自身が浴槽の中に入ってしまえば問題無いのです。隅々まで楽に手が届くので、掃除もやり易いですよ。



腰痛予防のストレッチ

【 超簡単!腰痛予防のストレッチ 】 ※現在急性腰痛のある方は症状が治まるまでやらないでください!

ベッドの上で寝転んだままできる、腰痛予防のストレッチを紹介します。同種のストレッチ体操などと比較して、
① 動作が簡単だから、覚えなきゃならないことが少ない。
② 寝ていて行なうストレッチだから姿勢を崩して倒れる心配がない。
③ 一動作=一呼吸なので時間が掛からない。
④ 普通の生活では動かす機会が少ない部分まで筋肉を使うことができ、簡単に血流促進が得られる。
などのスグレた特徴を持つストレッチです。

左右交互に3セット行ないます。慣れてくると、じっくり行なっても1分以内で済むストレッチです。 ※ 動作中に痛みを感じる場合は、その動作は省略して次の動作に移ってください。次のセットで同じ動作を試みると、痛みが少なくなっている・・・筈です。



体を反らす

【 片方の腰を挙げるポーズ 】

この3つのストレッチの中で一番難しいと皆さんがおっしゃるポーズで。要は慣れの問題です。
① 床に仰向けになってどちらかの膝を曲げる。
② 図のように左側を曲げた場合は、顔を左側に向ける。
③ 左足首を底屈(=爪先立ち)して左側の尻を持ち上げる。こうして、右の肩から左膝までが一直線になるようにする。
このポーズを息を吐きながら3秒続ける。

気持ちよく行なえない人はチェック
⇒膝を曲げている側に顔を向けていないのではありませんか?
⇒腰を左右とも持ち上げているのではありませんか?それはやり過ぎですし腰に負担が掛かりすぎます。腰を挙げるのは片方だけでお願いします。


体幹を捻る

【 体幹を捻るポーズ 】

① 前のポーズに続いて、頭を左にむけたまま、
② 図のように右手を左膝の外側にあてて床面に向って押さえつけ、結果として下半身を右に廻すようにする。
※ このとき膝関節は伸ばしてもよいし曲げてもよい。体が柔らかい人だったら臀部に右手が届くので、そこに右手をあてて下半身を捻ってもよい。
③ このポーズを息を吐きながら3秒続ける。

上手くいかない人はチェック
⇒下半身が捻られた方向と同じ向きに顔が向いているのではありませんか?下半身の向きと顔の向きは逆方向になると覚えましょう。


体幹を屈曲する

【 両手で膝を引き寄せるポーズ 】

ご紹介するなかでは最も覚え易い動作です。膝を引き寄せながら息を吐けるかどうかがポイント。
① 前のポーズに続いて、左膝の下側を両手で抱え、
② 左の膝頭を引き寄せて額につけるようにする。図のように頭を持ち上げて左膝との距離を縮めるよう努力する。やはり息を吐きながら3秒続ける。

以上の3つの動きでひとまとまり。図では最初に左膝を曲げるところからご紹介していますが、次は右の膝を曲げて反対側から以上の3つの動作を同様に行なってください。




腰痛になってしまったら

【 腰痛のあるときの起床法・・・これ以上の悪化を避ける 】

起床しようとしたら腰部の強い痛みでまったく動けないのに気付いた・・・医療機関に電話しようにも先ずは起き上がらなければ始まりません。ベッドからトイレまでが遠い道程に思える、そんなときの体の起こし方を紹介します。

腰痛のあるときの起床法 ① 先ずはなんとか体を横にして、
② 脚を左右ともベッドの縁から外側に出します。
③ 手の力で上体をゆっくりと持ち上げます。あせらないことが肝心。
横向き(=側臥位)にもなれない場合は無理に起き上がろうとしないで様子を見ます。暫くすれば横になることが可能となるのが普通です。
※ここではベッドで休んでいることを想定しています。布団でお休みの方の場合は徐々に四つ這いになるしかありません。腰痛の予感があるときは、ある程度高さのある場所で体を横たえていたほうが、起きるのが楽になるようです。



肩こり予防

【 肩凝りって、どういう意味? 】

体幹を捻る 『肩が凝る』という表現。それは肩関節自体(緑色の部分)とは全然関係なく、首の付け根から肩甲骨くらいまでのエリア(青色の部分)に、持続する重い感じがあるとか、首を動かした際に痛みを感じるなどの症状を指すようです。
肩こりの原因は、骨格に起こった構造的な問題を要因とするもの、近々の動作や習慣による負荷を要因とするものに大別されます。
具体的には、頚椎の椎間板変性や、頚椎すべり症、頚椎周辺の骨格の生理的彎曲の乱れ、などが前者にあたります。
ディスプレイを長時間見つめるなど目を使い過ぎた後で感じる頸部の重い痛みや、朝起床したときから突然発生する強烈な痛みのために、頸部を動かすことがままならなくなる『寝違え』などは後者にあたります。もちろんスポーツで頑張り過ぎて過大な負荷を与えたなら、筋肉痛が発生してもおかしくありません。

世間では大雑把に、頚部周辺の痛みや違和感のうち慢性的なものを『肩こり』、急性で痛みが強いものを『ねちがえ』と呼んでいます。実際には症状の実態は様々だし、予防法もそれぞれ違います。それに自身の状態を正確に把握するのは難しい。そこで一般的なアドバイスを書きました。


【 寝るときに頸周りを保温 】

予防法としてお勧めしたいのは就寝中の保温。頸部周囲にタオルやスカーフなどを巻いておやすみになるだけで良いのです。
使い捨てカイロの使用は低温やけどの原因になるのでお勧めできません。“加温”ではなく“保温”をしてください。
洗髪後まだ水気が残っているうちに就寝することはお勧めできません。気化熱が頭部から奪われます。よく乾かしてから休みましょう。
意外にも寝具に横たわっている間に頸部が冷えることが多いのです。頸の付け根から上は布団が掛かっていません。しかも寝ているのでその冷えに気付きません。
これは冬場に限った話ではなく、冷えによる循環不全が原因と思われる『ねちがえ』の患者さんは季節の変わり目によくおみえになります。

身体の特定の部分が長時間冷やされると、その部分の血流が悪くなります。すると細胞の維持に必要な物質の供給は滞り、細胞に不要な物質の排泄も行えなくなります。明け方の低い気温によって、頚部が冷やされ、以上のような状態になったところで目覚ましのベルが鳴り、起き上がろうとしたその時、はい、頸部の筋肉が攣縮して『ねちがえ』が発生するというストーリーです。
いったん寝違えを発症すれば、概ね3日間は痛みが続きます。


【 枕の選定 】

枕の選定はよく訊かれる質問です。硬い軟らかい、高い低い、材質のあれこれ、など、いろんな枕があり、それぞれ理屈があるのは承知しています。だが、万人に共通する完璧な寝具がただ一つだけ存在するなんてありえません。
骨格は人それぞれ違うわけですし、それにも増して人々をとりまく環境はさまざまあるのです。わたしは当院で販売している北欧製のウレタンの枕を使っています。床方向からの音を吸い込む感じで落ち着くところが気に入っていますが、蕎麦枕からざらざらと音が聞こえるのが落ち着くという人もいるでしょう。あくまで好みの問題です。
私に言えるのは、『あれこれ試して、最も感性に合うものを選んぶ。』と、これだけです。どのような寝具で寝るかより、頸の付け根の保温に気をつけることが大事なのです。


【 足に関するトラブルあれこれ 】

足裏は地面と身体が接触する部分です。身体の複雑な動きから発生する重力加速度を受け止めて日々頑張っている部分で、それなりに負担も大きく、さまざまなトラブルが発生します。
足回りの怪我で最も頻繁に遭遇するのは『足関節の内返し捻挫』で、距腿関節という部分の関節可動域を超えて捻ってしまうものです。

慢性的に進行する症状では『外反母趾』が良く知られています。
足の爪の角が皮膚に食い込んで痛みを発生する『巻き爪』も厄介ですし、足裏の角質が骨側に増殖して歩く度に痛みを発生する『ウオノメ』も気になります。
これらに比べると『偏平足』と『ハイアーチ』はそれ自体では直接痛みをもたらす障害ではないため、耳に馴染みが無い方も多いことでしょう。いずれもアーチ構造が乱れている症状で、足の慢性的な痛みの原因となっています。またこれらの症状は、ふくらはぎの肉離れや膝の痛みの遠因にになっているとも考えられるため、できれば対策を施すべきなのですが、指摘されるまでは自覚が無いのが特徴です。
この他、踵骨の底に発生する『骨棘(こつきょく)』に悩む方も少なくありません。踵を地面に着くと強い痛みが発生する症状です。



【 アーチ構造の役割 】

足のアーチ構造足のアーチ構造に係わる靱帯 正常に機能している足の骨格には、縦横二方向にアーチ構造が観察されます。
この構造により、踵と第一指の根本、第五指の根本の三箇所で荷重が分散され、トライポッド(三脚)のように床面に対して足を安定させています。地面に立つ人間の体重は距骨から足の骨格を中継して大まかに2つの方向に分散されて足裏に到達します。

正確を期すためちょこっと書き出しますと、
脛骨から距骨へ伝わる加速度は距骨から前後に分散し、①後方は踵骨へ向い、②前方では舟状骨、楔状骨を経由して中足骨に伝わります。体重が脛骨に掛かると、③アーチの底部分に引き伸ばされる力が生まれます。
③の長さを保っているのは主として足底腱膜や短趾屈筋、足底側の靱帯などの骨以外の組織(=軟部組織)です。
このような構造によって足首に地面と身体双方から伝わる衝撃を和らげています。



【 偏平足とは? 】

偏平足偏平足 上の図に示す③の部分が長めになっている場合は、アーチの下向き部分の角度が少し広がってしまい、そのせいで土踏まずが全て地面に着いてしまいます。
赤ちゃんは生まれたばかりは偏平足ですが成長するに従って徐々に土踏まずが形成されていきます。
偏平足の原因としては、足の骨格の形成不全や短趾屈筋の弛緩などが考えられますが、ホントのところはわかりません。というのは長期に亘って足の形成過程をトレースした研究が殆ど見当たらないからです。
それでも実際に不便はあり、偏平足の人は距腿関節に掛かる力を分散することが困難ですので足の関節や腓腹筋などを傷め易いと考えられます。本人に自覚が無い場合が多いのですが、写真のように土踏まずに指先の関節までを挿入できなければ偏平足といえるでしょう。
また、土踏まずの内側の骨格が内側に飛び出して見える方は、ほぼ間違いなく偏平足です。




【 ハイアーチとは? 】

ハイアーチハイアーチ 偏平足と逆に、アーチ構造の図に示した③の部分が短かめになっている場合は距腿関節を中心にしたアーチの下向き部分の角度が狭くなっていて、そのため土踏まずを中心に足が曲がったようなシェイプになっています。甲の部分は強く上に引き寄せられ、俗に言う『甲高』の状態になります。
ハイアーチは運動部所属の学生に多く見られるもにで、興味深いことに殆どの方には自覚がありません。原因不明の膝の痛みや度重なる脚の肉離れ、距腿関節の捻挫を繰り返す患者さんにしばしば見られる症状です。



【 接地面でわかる偏平足とハイアーチ 】

足の骨格 妙な表現になるかもしれませんが、人間の身体はその体重に見合う分だけ常に地球に引っ張っられています。
足裏は地面と接触する部分でその体重を受け止めています。

身長170cmの人の足裏の面積は20平方センチほどですが、図で白色で示すように、指の根元の関節と土踏まずは地面と接触しないため、直接過重が掛かるのは10平方センチくらいです。荷重の掛かる部分の皮膚は角質が厚くなっており、硬い質感になっています。

この部分を肌色で着色して示したのが、上記の偏平足やハイアーチ説明文のイラストの左側です。ここに示した正常な足裏と比較してみると一目瞭然です。



【 踵骨の骨棘 】

踵骨の骨棘 アーチ構造の底辺部分は常に引き伸ばされる力を受け止めています。足の指を曲げる働きのある短趾屈筋群や足底腱膜などが踵骨に着いています。踵骨と接合する部分には引っ張られる力が掛かり続け、その部分に骨棘を形成することがあります。

一旦この棘が形成されると踵が地面に着く度に鋭い痛みを感じるため非常に厄介です。この踵骨の骨棘対策を長年手がけてきましたが、私の見るところヒールカップ(=足底板)の装着が唯一にして最良の対策です。



【 偏平足やハイアーチ、および踵骨の骨棘に対するケア 】

R/SボードR/Sボード 『偏平足』『ハイアーチ』の是正や『踵骨の骨棘』の治療に足底盤が効果的なことは最近になって知られてきました。
これらの足底盤に求められる役割を症状別に挙げてみます。
『踵骨の骨棘』に関しては踵の底部分を覆うような形状の『ヒールカップ』と呼ばれる構造が重要です。踵の底にある脂肪組織と膠状組織をこのヒールカップに閉じ込めて、『自前のパッド』として利用することで棘が地面に直接接触しないようにします。
『偏平足』対策としては、足底にあるアーチ構造の底辺のたるみを是正し、更には広過ぎるアーチの股の角度を狭く保ちます。その結果、アーチ機構が本来の役目を果たすようになります。
『ハイアーチ』の方にもやはり足底盤が役立ちます。この場合は底側踵舟靱帯と呼ばれる、靱帯の中でも例外的に伸び縮みする能力を持つ特別な靱帯への負担を減らすために用います。



【 足底板にはどんなものがある? 】

上記にある機能を満たすために足底盤に求められる性能を満たすためには、フィッティングが何より肝心であることは明らかです。
『シューフィッターが制作するタイプ』:いくつかの繊細な作業を経て制作されます。硬質スポンジで型を取り、そこに石膏を流し込んで足型を立体的に制作した上で、コルクと接着剤を混ぜたもので足底板を制作します。正確なモールディングが可能です。一足の靴に嵌め込んで完成するものです。
『ベースプレートの上に立体的なパーツを貼り付けるタイプ』:文字通り、先ずは平らなベースプレートを購入し、更に各々の足底に合わせたパーツを購入し、ベースプレートの上に貼り付けて目的の形に仕上げていくものです。このタイプは正しいフィッティングを得ることが難しいうえに各パーツが安くは無いので、コストがかさむという代物とです。
『アーチサポートシート』:熱可塑性素材(=プラスティック)を用いて制作しているものです。下に示すような特徴があります。



【 アーチサポートシートの特徴 】

ここでアーチサポートシートの特徴をご紹介します。

①各々個人の足底からにモールディング(=型取り)するため、完全なフィッティングができる。
②一旦制作すれば、それを他の靴に入れ替えて使用することができる。つまり、靴ごとに新しいものを作らなくても良いので経済的。
③熱可塑性素材の特徴として、熱を加えることで微妙な整形が可能。これにより完成引き渡しの前に目的別の細かい修正が可能。
④価格は非常に安い。同じく完全にモールディングするタイプのコルク製のものと比較して1/3から1/10のコスト。 ⑤制作に必要な時間が非常に短い。片側30分もあれば完成する。アーチサポートシートの制作方法⇒
素材のプラスチック材料の強度(しなりからの戻りの能力)を活用して違和感無く装着していただくことが出来ます。



外反母趾

【 外反母趾とは? 】

正常な足外反母趾 足の裏に掛かる体重は、①第一趾とその付け根の部分、②第五指の付け根部分、③踵部分、の3つに分散されて地面に伝わります。
外反母趾の多くは、不適切な靴を長期に亘って履くことが原因となっていると思われます。
《初期段階》外反母趾の初期症状は靴を脱いでも足の第一指が外側に反ったままになってしまうこと。このころは自身の力で第一指を元通りに真っ直ぐ伸ばすことができます。
《進行段階》初期のうちに処置を怠ると、このころから徐々に痛みを感じてきます。自身の力では第一指を元通りに真っ直ぐ伸ばすことが困難になり、第一中足骨の骨頭が肥大してバニオンと呼ばれる瘤が出来てきます。
《不可逆段階》さらに症状が進行して完成期に至るとバニオンは益々成長し、第二趾が第一趾の上に乗り上げてしまう場合もあります。こうなると歩行困難をきたします。

【 外反母趾の原因 】

足の骨格外反母趾 外反母趾の原因は先天的素因が影響するとの説もありますが、靴の形状によるものが多くを占めているようです。日本の女性は爪先の尖った靴、足が楚々と小さく見えることを好む傾向があるようです(あくまでも一般には、の話)。で、そのような嗜好に見合った靴の外観というのは舟の舳先(へさき)のようなシェイプをもっており、足の親指(=第一趾)が納めるに充分なスペースがありません。そこで指は靴先の形に合わせてかなり無理に外側に曲がらざるを得なくなります。結果として第一趾では体重を支えることが出来なくなり、替わって指の付け根部分に体重の分担が託されることになります。
女性も若いうちは関節が柔らかいので、小さい靴を履いて歩いても痛みは感じません。なにより気に入って購入した靴ですからね。無理な形状をした靴が足にどんな悪影響を与えるかなんて気に留めていない。このような靴を長い期間履き続けると徐々に足先の骨格が変形してきます。そのうち足の親指は靴のシェイプの通り、外向きになったきりになり、靴を脱いでも元に戻りません。
趾の底の代わりに体重を支えなければならなかった趾の付け根部分(=第一中足骨の骨)が徐々に肥大してバニオンと呼ばれる瘤を形成します。また第一中足骨と第二中足骨の間の距離も離れてきますので最終的にはイラストに示すような典型的な外反母趾の形が完成します。

【 外反母趾と靴の関係 】

外反母趾外反母趾 靴が外反母趾に大きく関与していることがお分かりになるでしょう。
足の痛みを訴えて来院された女性にお願いして撮影させてもらったものです。5年前今の会社に就職してから、ずっと彼女の横に置いてあるようなシェイプの靴をご愛用になっているのだそうです。
足全体の形が、まさに履いてみえた靴をそっくり映したようになっているのがわかります。
20台半ばにして既に外反母趾が完成しています。彼女の足の骨格は、このまま形が決まってしまう運命なのか?
愛用している靴の形は足の骨格に大きな影響を与えますが、影響の程度は人によってまちまちです。しかし注目したいのは、この女性、学生時代は外反母趾は無かったと記憶していること。体質にもよるでしょうが、たった5年の間にご覧のような大き変化が起こりうるという事実です。放置すれば右側の写真(70台女性)のように、第二指が第一指に重なるような、重い変形をきたす可能性があるでしょう。
外反母趾が酷くなるのを防ぎ、元のような真っ直ぐな骨格にもどるチャンスはあるのでしょうか?

【 外反母趾の治療 】

外反母趾を是正しようとする試みは数々あります。母趾を内側に引っ張っるサポータを装着してみたり、母趾と第二趾の間にクッションを挟むなどの方法ですが、装着感が悪いという欠点がある上に、原因となった母趾のためのスペースが狭い靴をそのまま履き続けていれば、これらのサポータやクッションが挿入されることでますますスペースに余裕が無くなり、他の部位に痛みが発生したりもします。
この状態から更に症状が進行すると、第一中足趾と第二中足趾の骨頭の距離が開いてしまい、骨頭部分は膨らんでバニオンを形成します。こうなると激しい歩行痛を感じる場合もあり、そうなれば手術による整形外科的治療法の適応となることもあります。
総括すると、いったん外反母趾が進行してしまうと、保存療法では顕著な効果が得られ難いのが実情です。本格的に外見を整えようとするなら外科手術を受けなければならず、そうなれば術後の安静も含めてそれなりのストレスを覚悟しなければならない、ということです。

【 外反母趾を招きにくい靴とは? 】

こんな不便で辛い外反母趾状態を避けることは出来ないのでしょうか?
はっきり言って若い内なら大丈夫。進行を止めることは可能です。
先ず靴のシェイプを見直してください。
一番大事なのはその靴の尖端のデザインが母趾が中足趾の軸の延長上に伸ばせるスペースを確保するものであること。
母趾の尖端から先に関してなら、丸いシェイプや四角いシェイプ、尖ったシェイプなど、どんなデザインだって良いのです。
あまりに高さのあるヒールは歩き難いものです(本来ハイヒールはダンスシューズです)。しかし外反母趾に関していえば、上に挙げた条件さえ満たしていれば大丈夫。踵を載せる部分が地面に対して水平になっているものであれば尚良いでしょう。
外反母趾を招きにくい靴は、同時にウオノメや足首の捻挫などのリスクを減らしてくれるものでもあります。